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書籍・DVD
マンション資産価値データから予想する
「値下がりしないマイホームを選ぶための絶対公式」(2009年版)
~収益還元法とキャップ・レートを理解して不動産の価格形成法則を知る技術~
財営コンサルティング刊 2008年刊 定価
2,800円(送付手数料800円含む)
※本書の販売は終了致しました。
人気シリーズ第2弾!
(第一弾は、おかげさまで「お金に困らなくなるマイホームの買い方・つかい方」
として書籍化されました…)
累計5万部の著作群を集大成した「完全裏マニュアル」が完成!本書は、サブプライム
後の不動産購入法など最新必須知識が満載された虎の巻です。
また、「マイホームは“貸せる物件”を買いなさい」「不動産でハッピー・リッチになる
方法」「東京のどこに住むのが幸せか」「東京マンション資産価値予測」「お金に困らな
くなるマイホームの買い方・つかい方」などの著作群のエッセンスをアップデートした究
極の完全裏マニュアルです。
はしがき 収益還元法を「知らなかった」では済まされない時代
マイホームを「買う」、あるいは「建てる」とき。
そんなとき、人は色々な夢を見てしまいます。
整然とした街並み、イルミネートされた生け垣、広いリビング…。
しかし、人は、その行為が“不動産投資”であることに気づきません。
マイホームは、理想の暮らしを具現化するための手段であって、投資の対象ではない。
そう考える一方で、誰も「値下がり」するようなマイホームを買いたくありません。
そもそも「値下がり」という言葉は“キャピタルロス”のことです。
“キャピタルロス”という言葉は、明らかに投資用語なのです。
心のどこかに、無意識のうちにマイホームに投資している自分がいます。
マイホームに夢を求めつつも、財産形成を着実にして、豊かな人生を歩みたい。
その矛盾に気づいた者に福音は訪れます。
今、日本では単身世帯が増加し、世帯当たりの人数が減っています。
子供のいない夫婦、離婚して子供と暮らする母子ファミリー、そもそも結婚をしようとし
ないシングル、一人暮らしの高齢者など…。
従来は、主流派ではなかった層が激増しています。
むしろ夫婦2人と子供2人という標準世帯の方が少数派かもしれない。
家族観の多様化が大きなうねりとなって、世帯構造の変化を促しています。
これらの現象は、上野千鶴子女史の著作の表現を借りれば「近代家族の成立と終焉」という
ことになる。
不動産実務の現場でも混乱が起きています。
実需用(マイホーム用)の物件と投資用の物件が“外形的”には区別がつかないのです。
シングル層が、広めのワンルームマンションを、実需目的で買う。
その一方で、投資家層が、ファミリー向けの3LDKを買う。
「どんな不動産が売買されたか」は分かるのですが、「何のために売買されたか」は分から
ないのです。
両者の差異は、外形的には区別がつきません。
行為主体者の意図までは、各種データでは判別できないのです。
つまり、実需用に企画された不動産が投資の対象になったり、投資用に企画された不動産
が実需の対象になったりするのです。
特に、都心や大都市圏の中心市街地において、その傾向が強い。
転職や転勤によって途中から目的が変わることもあります。
最近は、ハウジング雑誌でも、よく資産価値や賃貸価値の特集が組まれます。
マンションPERなどという金融用語との合成語も生まれ、実需物件を利回りで比較評価
したりもします。
そんな社会風潮が進む中で、プロであろうと、一般消費者であろうと、遍く不動産に係わ
る者は、“収益還元法”を熟知しなければならない時代になりました。
それを、比準価格、限定価格、積算価格という、相対的な鑑定理論体系の中で熟知しなけ
れば、大火傷を負ってしまうのです。特に昨今は…。
私が8年前(2000年)の著作「マイホームは貸せる物件を買いなさい」で予言した通
りの世の中になりました。
投資家はもちろんのこと、実需目的の一次取得層も、不動産で資産的な損失を出したくな
いのであれば、絶対に“収益還元法”を熟知しなければならないのです。
しかしながら、実は、収益還元法は、かなり厄介な代物です。
巷では、ご丁寧に収益還元法を詳しく解説してくれる不動産鑑定士もいます。
FP(ファイナンシャル・プランナー)の試験でも頻繁に出題されるようになり、言葉だ
けなら、不動産業界に限らず、金融業界でも、知っている人が増えました。
ですが、大きな問題は、誰も実用的な知識を教えてくれないことなのです。
なぜ、そうなってしまったのかというと“ブラック・ボックス”があるからです。
収益還元法の肝とは、すなわち“キャップ・レート”です。
この“キャップ・レート”が決められなければ、収益還元法を効果的に活用することはで
きません。
実務的には、これが最も困難な作業なのです。
不動産鑑定のプロを自称する方々の中には、それを取引事例から導く人がいます。
でも、それは、ナンセンスというものです。
なぜなら、それは取引事例比較法になってしまうからです。
その価格は比準価格と呼ばれます。
また、投資家の中には、物件ごとの利回りを比較して意思決定をする人がいます。
その投資家は「収益還元法で比較しているからリスク対策は万全だ…」などと意味不明な
ことをおっしゃる。
その投資家は、不動産のリスクというものが全く何も理解できていない人です。
表面的に高利回りな物件、すなわち地方都市や郊外に立地する物件を買ってしまう人は、
願わくば、破綻者にならないように、唯々祈るだけです。
リスクの高い物件は「収益性」が高くなければならない。
リスクを管理するためには「換金性」が高くなければならない。
この収益性と換金性を勘案した評価法を、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・
フロー法)と呼びます。
これは、出口戦略(換金性)を加味した“収益還元法”です。
従来から普及していた“直接還元法”よりも、若干、計算過程が複雑です。
でも、絶対にこれをマスターしなければ、危なくて、不動産なんて触れられません。
プロに限らず、一般の方々も、DCF法を学ばなければならない。
そうしなければ、不動産のリスクに気づかないのです。
DCF法の考え方は奥が深いのも特徴です。
別のメリットもあります。
不動産を鑑定すること自体も大切ですが、むしろ、その鑑定理論の背景と実務的なプロセ
スを知ることによって、リスクを正確に把握する体系を知ることの方が大切なのです。
DCF法を熟知することには、そのような効用があります。
私は、拙著「マイホームは貸せる物件を買いなさい」にはじまり、「不動産でハッピー・
リッチになる方法」「東京マンション資産価値予測データブック」「お金に困らなくなる
マイホームの買い方・つかい方」(以上、ダイヤモンド社)「東京のどこに住むのが幸せ
か」(講談社)などで、それは、延べ発刊部数では約5万部にわたりますが、収益還元法
をテーマにしてきました。
本書は、今回、特に「“キャップ・レート”の決め方」に的を絞って著しました。
コンサルティングの実務で活用している方法論をまとめたものでもあります。
従って、正統理論を踏襲していることは間違いありませんが、「山崎式にアレンジしてあ
る」ことを、あらかじめ断っておきます。
既存の解説書のほとんどは実用にたえないようなものが多いのですが、本書は、そういう
机上の空論ではないことも、断っておきます。
さらに、もうひとつ付け加えたいことがあります。
それは、確かに「山崎式」ではあるものの、「それを活用する個々の意思決定者の主観的
な判断を自在に盛り込むことができる」という特徴を持つことです。
つまり、私は、皆さんに“基本ソフト”を提供しますが、それをご自身で再アレンジすれ
ば、自由自在にキャップ・レートが操れるようにしてあります。
リスクを正確に予測することは難しいものです。
本当のリスクプレミアムを知っている人は、大袈裟に言えば、実は、神だけなのかもしれ
ません。ケインズを学んでも、サミュエルソンを学んでも、絶対に答えは出ません。
リスクの本質は、未来の予測にあるからです。
私は神ではないので、統計で実証的に導くことができる範囲内で、“リスクの標準値”を
示しました。
この標準値に対して「楽観的に過ぎる」と捉える人もいるだろうし、
「悲観的に過ぎる」と捉える人もいるでしょう。
それを決めるのは、私は、都市形成史という歴史的な文脈に対する洞察力だと思います。
もしも、読者が安全確実に財産形成をしたいのなら、より悲観的にチューニングすること
をお薦めします。
また、自己資金が少なく、借金を愛する人も、さらに悲観的になった方が良いでしょう。
一般的な傾向として、借金の愛好家は、なぜか楽観的なのです。
楽観的な借金の愛好家は、破綻予備軍ですから、気をつけてほしい。
キャップ・レートは、如何にあるべきか。これは“永遠のテーマ”です。
私は、やっとのことで、中学生でも計算できるような単純な一次関数を使って、これを決
められるようにしました。
シンプルなロジックで、誰にでも、リスクの予測が調節できるようにしました。
悲観的な人も、楽観的な人も、あるいは悲観的であるべき人(借金を負うべき人)も、
キャップ・レートが決められるようにしました。
これで、ある程度は地方の高利回り物件のリスクを見極めることもできるでしょう。
収益還元法の本質は、「不動産の資産価値も、金融資産のそれも、価値(バリュー)の根
拠は収益性にある」と捉えることにあります。
従って、ある特定の不動産を、同程度のリスクの金融資産(国債や長期安定的な金融商品)と
比較し、それよりも優位であるのなら「その不動産を買うべき」であるという意思決定を
することにあります。
そのベンチマークが“収益還元価格”であり、それが、理論上の“適正価格”である。
あらゆる不動産には適正価格があります。
そして、人は、それを資産価値(バリュー)と呼びますが、ただ、我々は、それを知らな
いだけなのです。
知ることができるのは、売り主が勝手に付けた価格(プライス)だけなのです。
そこに落とし穴がある。
この“バリュー”と“プライス”の間に存在する、価値と価格の乖離が見抜けないと、
人は、地獄へ堕ちてしまう。
本書は、誰もが天国へ行くために考案された“羅針盤”のようなものです。
この羅針盤は、単純な一次関数によって制御されています。
そして、それを皆さんがアレンジして、自由に操ることができるようにしてあります。
これは、住居系の不動産を扱うすべての人にとって、強力な武器になるでしょう。
特にマンション(区分所有物件)を扱う場合には、最強のウェポンです。
本書は、神のみぞ知る“適正価格”に迫り、その近似値を探りあてるための道具です。
私のクライアントに、破綻者になった方は、一人もいません。これは事実です。
なぜかというと、私は、過剰なぐらいに慎重だからです。
そんな、私個人の哲学が込められているノウハウでもあります。
科学的な行動を伴わない財産形成理論は、ギャンブル(投機)と同義語だと思います。
天国への階段とは、周到に設計された幾何学的な論理によって構築されているものだと、
私は思います。
目次と内容
はしがき 「知らなかった」では済まされない暴落エリアの大法則
- マイホームを買うことは「不動産投資」ではないのか?
- 天国と地獄の分岐点は“キャップ・レート”にあり
序章 不動産の価格形成メカニズムを知らずして買ってはいけない
- 初心者のための不動産鑑定用語の概説
- 不動産マーケティングで重要な概念は2つの理論だけ
- 日本で成立する不動産価格の多くは「限定価格」である
- 収益還元法という不動産鑑定理論が示唆する未来への道筋
- 不動産鑑定理論の本質が解れば財産形成に失敗しない
1章 超カンタン!山崎式「収益還元法」の活用法
不動産の暴落リスクから身を守る方程式
- 財産形成に成功するには山崎式の“絶対公式”を使うこと
- 絶対公式で適正価格(=本当の資産価値)を計算する
- まずは「マンション資産価値の判定法」のマスターが基本
- 物件が立地するエリアのリスクを数値化することの重要性
- 「簡易計算シート」を使ってマンションの適正価格を見抜くプロセス
- 適正価格(バリュー)と実売価格(プライス)を比較して意思決定すること
- 数学が苦手な人でも理解できるシンプルな一次関数
2章 山崎式「キャップ・レート」の論拠を知って鑑識眼を磨く
不動産は“プライス(実売価格)”ではなく“バリュー(資産価値)”に着目せよ
- 消費者であってもコンサルタントの技術を使うべき時代
- 資産価値の根拠を賃料相場に求める理由
- 不動産業者が勝手に値づけした価格(プライス)を鵜呑みにしないこと
- 天国と地獄の別れ道は「見えない適正価格」を探ること
- 負け組の街のダメ物件をつかまされないための奥義
- キャップ・レートの概念を知らずして不動産と係わるな
「不動産選びとは街選び」という大原則を数学的に把握する
- 資産価値の無い物件ならば激安で買うこと
- プライス(実売価格)とプライスを比較するのは愚の骨頂
- 全国各地で“お買い得物件”が暴落するカラクリ
- 「不動産を買う前に街を買う」という命題を科学する
- キャップ・レート運用の肝は“リスクプレミアム”を係数化すること
- 「利回り優先で選ぶ」のはズブの素人の発想
街の持続可能性(サステイナビティ)が勝ち組と負け組の分水嶺
- キャップ・レートとは「街の将来性」を表す重要指標である
- あなたにとって価値ある物件の「5大条件」を認識する
- 二次産業経済に立脚した街は“ハイリスク”なエリアである
- なぜ日本の不動産価格はマクロ的には下落し続ける運命にあるのか?
- 物量よりも知的資産への産業シフトが不動産価格の二極化を生む
不動産広告メディアの欺瞞性を認識しておく
- 「消費者が愚かであり続ければ業界とメディアが儲かる」という衆愚戦略
- 嘘の情報を流す広告代理店と操り人形の住宅評論家はゴミ箱へ
- 不動産業界が発表するデータを疑え
- メディアが流す捏造データと業界の癒着体質
- 要注意!山崎理論を悪用する輩が徘徊している
経済的な損失を出したくない人のための心得
- 下落が予測される不動産の損失額を減らす工夫
- 今どき郊外の新築マンションを買う思考回路を疑う
- 「今が買い時か?」という命題は「エリア特性と物件特性」が左右する
悪魔の囁き?禁じ手の“収益還元法”に注意する
- キャップ・レートの戒律を破ると上場会社でも破滅する
- 正統派の鑑定理論に忠実に従えば誰も破綻しない
- なぜ私のクライアントは誰も破綻しないのか?
- キャピタル・ゲイン期待法と取引事例還元利回り法は墓穴の入口
- 収益還元法は安全サイドにチューニングして使うこと
収益還元法の基本コンセプトは「長期の安全確実」
- 本物のコンサルタントは正統派の技術を使う
- 「不動産投資は常に引き分け以上の勝負をする」のがプロのスタンス
- 資産リスクの大きさは賃料相場の高さに反比例する
- 数学的なロジックを使って未来の資産価値(適正価格)を予測せよ
- 不動産の見立ては街を鑑定することから始める
- 街の鑑定には社会科学や経済学の素養も積む
山崎隆のビジュアル「不動産解析教室」
- メガシティの居住空間は一種の“基軸通貨”である
- 「街のリスクを見る」には座標上で関数化してビジュアルに捉える
- 「賃料相場が低いエリアはリスクが高い」という定理から関数を導く
- 安全サイドにカスタマイズ化された関数が応用できれば鬼に金棒
- 誰でもアレンジ可能な応用公式を公開する
- あなたも、公式を応用して自分専用のキャップ・レートを作りなさい
3章 何をもって「買うべきか否か」の判断基準にするのか?
マンション以外の不動産の適正価格を考察する
- アパートの適正価格を考えてみる
- 投資をする場合のキャップ・レートは千差万別
- 富裕層と貧乏層では“期待値”が異なる
- 不動産投資のメリットは「何もしない」こと
- 投資とは「お金の心配から解放されるために行う」もの
- 借金漬けの不動産投資はロジックとしては不可能な空論
- 借金愛好家の運命は“銀行”の手中にある
- 財務論が解らない人は大火傷に注意しなさい
- 一戸建住宅に収益還元法を応用する場合の課題
歴史的な文脈で賃料相場を分析しなさい
- 街にもライフサイクルがある
- ライフサイクルを知って「旬の長い素材(不動産)」を味わうこと
- デジタルよりも“アナログ思考”で賃料相場を調べることの重要性
序章 不動産の価格形成メカニズムを知らずして買ってはいけない
▼初心者のための不動産鑑定用語の概説
本文に入る前に、一応、鑑定用語を解説しておきますので、憶えておいて下さい。
まず、不動産を評価鑑定する場合に使われる方法論と、それによって導かれた価格の話を
しましょう。
よく使われる鑑定用語には、以下、4つの系譜があります。
①「取引事例比較法」によって導かれる「比準価格(又は取引事例価格)」
②「収益還元法」によって導かれる「収益価格(又は収益還元価格)」
③「原価法」によって導かれる「積算価格」
④「限定された人だけが享受する利益の大きさ」によって導かれる「限定価格」
▼不動産マーケティングで重要な概念は2つの理論だけ
住居系不動産の価格形成メカニズムには、二つの要因があります。
一つ目は「限定価格」。二つ目は「収益還元価格(又は収益価格)」です。
さて、不動産鑑定理論の中の「限定価格」から始めます。
例えば「Aさんの隣に住むBさんが、二世帯住宅を建てようと考えていた」ようなケース
を想定します。
仮に、このBさんの敷地は、とても狭く、かつ土地の形も悪いと想定しておきましょう。
一方、Aさんは賢い人で商社に勤めていたと想定します。
ある日のことです。Aさんは、Bさんの事情を知ってか知らずか、Bさんに相談があると
言ってきて、こう切り出しました。「実は、私はこの土地を売りたいのだけど、買ってく
れませんか?転勤になったのです。」と。
この場所を離れたくなかったBさんにとっては、渡りに船です。喜んで、尋ねました。
「それは、ありがたい。で、いくらですか?」と。
すると、Aさんは「んー、そうだな、坪当たり100万円ぐらいかな…」と。
Bさんは、びっくりしました。「えっ?ちょっと、高くないですか?この辺りじゃ、坪当
たり70万円が相場と聞いてますが…」と。
Aさんは、「いやあ、確かにそうかもしれないけれど、でもねー、Bさんの敷地と合わせ
れば、きれいな一体の正方形の土地になって、効率的な敷地になると思うけど…」と反論
しました。
確かに、そうです。Bさんの土地は、狭く、形も悪く、使いづらい土地なのです。
それが、Aさんの土地を一体化することによって、既に所有しているBさん自身の土地の
利用価値も上がるのです。
結局、Bさんは、他の人に売られてしまっても困るので、しぶしぶAさんの土地を坪当たり
100万円で買ってしまいました…。
▼日本で成立する不動産価格の多くは「限定価値」で取引される
この、一般的な価格相場よりも割高で成立する価格を「限定価格」と呼びます。
つまり、Bさんという限定された人だけに成立する「価格」なのです。
Aさんから離れたところに住む人にとって価値がない土地でも、Bさんにとっては、喉か
ら手が出るほど欲しい不動産なのです。
これを、私は「限定利益加算法」又は「地縁利益加算法」という用語(これは、私独自の
造語です)をもって、以後、説明しますから記憶しておいて下さい。
さらに、この考え方の本質を拡大解釈して利用します。これから、この鑑定理論を社会学の
視点で説明します。
ある人(仮に、山田さんとします)が、ある地域社会で暮らすことによって、その地域社
会から多大な恩恵を受けていたとします。それは、仕事、親戚関係などです。
仮に、この地域社会が成立する街の名称を、里山村ということにします。
山田さんは英語の読み書きは苦手ですが、里山村から車で15分のところにある自動車部品
工場の優秀な職工だったとします。
彼の奥さんの実家は農家なのですが、繁忙期には手伝いに行ってしまいます(そういう言
い訳をして、実家に帰りたいのかもしれませんが…)。
この夫婦と子供(高校生まで)は、この里山村が唯一の生活基盤であり、ここから出てし
まったら生活できなくなります。山田さんは、自動車工場が海外に進出してしまったら職
を失うことになります。全く英語が理解できないので、豊富な経験を生かして出稼ぎをし
ようにも、それは難しいかもしれません。
このような、地域共同体に縛られた生活者は、その地域の不動産を高値で買う傾向があり
ます。「資産価値としての適正価格」など気にしないで、そこに「地縁的な利益を加算」
してしまう。つまり「限定価格」で不動産を買うのです。
一方、「資産価値としての適正価格」のことを「収益還元価格」と呼びます。
その価格は「収益還元法」という計算法で導きます。
この場合の資産価値の意味は、プライス(価格)ではなく、バリュー(価値)ですから、
賃料という客観的な収益性の指標から導きます。
この考え方は、配当率から株価の適正価格を導く方法と同じ類いのものです。
ですから、都心から離れて田舎へ行けば行くほど、限定価格と収益還元価格の乖離は激し
くなります。田舎は賃料相場が安いですから。
また、この山田さんという人間の行動類型は、社会科学の用語では「ゲマインシャフト」と
いう言葉で説明されます。
つまり、彼は、地縁血縁に縛られた生活者なのです。私は、これを数々の著書の中で「農
耕民族」という言葉を使って説明してきました。
▼収益還元法という不動産鑑定理論に隠れた重大な視点
世界中のどこでも通用する職能を持つ人は、移動を苦としません。むしろ、その職能を磨
くために、世界を股にして渡り歩くことを好みます。チャレンジャーなのです。
彼の知的資産は、工場や農地と違って、どこへでも持ち歩くことができます。そして、家
族単位で引っ越しを繰り返し、その行き先の街々では賃料を払って暮らします。
そんな人は、社会科学では「ゲゼルシャフト」的な傾向が強い人間と考えます。私は、そんな人々を
「狩猟民族」として説明してきました。
社会科学では「近代化とは、ゲマインシャフト型からゲゼルシャフト型の社会へと移行する
過程である」と説明されます。大学では、そう教えられます。
そして、ゲゼルシャフト的な傾向が強い人は、マンションを買っても、それを使わな
くなったりすれば、他人に貸したりします(もちろん、売ってしまうこともあります)。
年収が高いので、そのうち、また別のところにマンションを買ったりもします。住宅ロー
ンを2本組んでも、気にしない。というか、結構な額の自己資金も持っている。
そうこうしているうちに、所有している不動産のうち、どれがマイホームで、どれが投資
用なのか、分からなくなってきます。
でも、「まっ、いいか」と、両者を区別して考えなくなります。
しかしながら、彼は、里山村のようなところには、絶対に不動産を買わない。
自分で住むことはあり得ないし、誰かに貸すには効率が悪すぎる。
でも、別荘は欲しい。たまに住んだりするだけで、他人には貸さない家が欲しいとも思う。
それなら沖縄の恩納村の海辺にでも別荘を建てた方が、よほど、クリエイティブだ。そう
考える。
これが、高額所得層の狩猟民族の思考回路なのです。
この場合の別荘の価格は、高額所得層の「限定価格」になります。
これがグローバルな話となると、モナコの別荘になったりする。
さらに、モナコだけでなく、ケイマンの別荘へ行って、ついでに脱税やら節税の算段をす
るためのオフィス兼住宅が欲しくなったりする。
すると、その別荘の価格は、彼にとっての「収益還元法」で導かれるかもしれない。
価格は[年間節税額(脱税額?)÷期待利回り]で計算できるでしょう。
余談はさておき、実は、これら価格形成の説明根拠には「限定価格」と「収益還元価格」
しか不要です。これが不動産鑑定理論の本質、奥義なのです。
ですから、不動産売買の取引事例(取引事例比較法)から導かれた「比準価格」に根拠は
無い。それは、取引された後の結果論であって、理由を説明してくれるものではない。
また、これとは別に、取得コスト(つまり「原価法」)から導かれた「積算価格」という
概念がありますが、これにも資産的な説明根拠が無い。
土地と建物の取得コストを足しただけで、建物の客観的なマーケット上の利用価値の極大
化、すなわち「最有効利用(又は最有効使用)」という概念が、そこには存在しない。
この「最有効利用」については、できれば、拙著「お金に困らなくなるマイホームの買い
方・つかい方」に詳述されていますので、読んでみて下さい。
よく、どこかのご老人がこのようにおっしゃいます。
「わしゃー、この自宅の土地を1千万円で手に入れて、建物には2千万円を掛けて、それ
で家を建てたんじゃ。だから、この家には、3千万円の価値があるんじゃ!」と…。
でも、この家を内覧すると、そのカスタマイズされ過ぎた間取りに「ギョッ」とする。
和室ばかりで、大きな仏間がある。押し入れだけで、クローゼットが無い。洗濯機の置き
場が屋外にある。キッチンに食器洗浄器のスペースが無い。浴室乾燥機も無い…。
プロならば「だめだ、こりゃ…。この状態では売れないし、貸せもしない。土地だけの相
場価格から解体費用を差し引いた値段で売れるのがせいぜいか。地盤も悪いので、基礎補
強コストも必要かなあ…」と思う。
つまり、この家の値段は、頑張っても、5百万円ぐらいか。
しかし、あくまでも、ご老人は、3千万円の価値があると言い張る。
この痴呆症気味の老人の脳の中には「原価法によって導かれた積算価格」の概念しか存在
しないのです。これは、明治維新以降の土地本位制の下で育まれた“最後の生きた化石”
としての、条件反射なのです。
いくら私が「土地(=宅地、≠農地)というものは、それだけでは価値が無いのですよ」
と説明しても、宇宙人でも見ているような目で、こちらを見る。
このロジックこそが、数々の悲劇をもたらす積算価格の思考回路なのです。
つまり「積算価格」という概念に資産的な根拠が無いことに気づかなければ、何度でも同
じ失敗を繰り返すことになる。
▼不動産鑑定理論の本質と限界
結局、住居系不動産の資産価値の根拠として使えるのは、「地縁利益加算法」から導かれ
た「限定価格」と、「収益還元法」から導かれた「収益価格」だけ。
前者は“ゲマインシャフト”の価格で、後者は“ゲゼルシャフト”の価格なのです。
それ以外の不動産鑑定理論を熟知しても、あまり意味がありません。
深く学んでも、労力の無駄なのです。
特に積算価格について学ぼうとすると、限りなく建築知識が必要になる。
それなら、不動産鑑定士よりも、設計士の方が詳しい。
まあ、日本の不動産鑑定制度の体系の主目的は、課税基準を決めることだから、根拠が無
いのは当たり前なのです。
公示価格、路線価格、固定資産税評価額などというものは、所詮、財務省だけにとって利
益がある価格であって、いわば「財務省の限定価格」なのです。バリューではなく、財務
省が勝手に決めたプライスと言えます。
結局、平成の不動産をとりまく社会状況においては、現在においても、何もかもが明治維新
から始まった近代化の途上にある。不動産価格の見立てが混乱しているのは、その証左
なのです。
こんな虚構の論理に付き合わされていたら、本当の不動産の価値を見極めるための鑑識眼
が曇ってしまうのです。
日本の社会構造が激変し続けている。
そんな時代にあっては、過去の遺物となったフィルターを通じてではなく、あるがままの
姿の不動産を見ることが、最も大切なことなのです。